できれば本に埋もれて眠りたい
基本的に内容紹介程度のネタバレですが、必要に応じてあらすじをすべて書くこともあるのでご注意ください。
興味があれば参考に各年の読書の総評、2006年まとめ 、 2007年オススメ本と総評 、 以外に充実の2008年/2008年の本の話 をご覧ください。

目次まとめ の更新は滞り気味・・・


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試合だけがサッカーじゃない/ディナモ・フットボール

ディナモ・フットボール

宇都宮徹壱



ディナモ・フットボール―国家権力とロシア・東欧のサッカー/宇都宮 徹壱
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たとえば温泉に入って「あぁ、いい湯だぁ」とうなるだけか、「この湯は川端康成が入って、あのへんてこな『雪国』を書いたんだよなぁ」と感じ入るか。

これは趣味の問題で自分の入りたいように入ればいいと思うのですが、まぁ、そういう2種類の入り方もあるともいえなくもない。


サッカーも同じで、試合そのもの、選手をみてあぁだこうだいうのもいいのですが、ほかの見方を指南してくれるのが「ディナモ・フットボール」です。


「ディナモ」とは、東欧諸国で冷戦時代に体制側のサッカーチームによくついていた名称だそうです。

「ディナモ・モスクワ」

「ディナモ・ベルリン」

「ディナモ・キエフ」

「ディナモ・ブカレスト」

など、体制側と深く結びつくことで得たアドバンテージにより、その国のリーグで常に強豪チームとして存在していた「ディナモ」


しかし冷戦の終了とともにそのアドバンテージも消え、世間からの「体制」側として反感もあり急速のその力が衰えるも、かといって他にずばぬけた強豪が現れるでもなく。過去の栄光も含め「ディナモ」という名は残っていきます。


そういった全体背景と、それぞれの「ディナモ」の歴史を探っていきます。


まず面白いのは「ディナモ・モスクワ」

戦後すぐイギリスに対外試合に向かい、当時のアーセナルなどのクラブチームに圧倒的な力を見せつけたそうです。


「ディナモ・ベルリン」は往時の強さと現在の凋落の様子。


と語られる歴史と現在のサッカーを取り巻く様子を読んで行くと、試合そのもの以外を見るサッカーというものが存在してもいいなぁ、という感覚に包まれていきます。



がしかしそうはいってもサッカーの試合そのものの魅力を超えられないのは確かですし、この分野の掘り下げが始まったばかりなのも確か。

この本も歴史ばかりに集中せずに、各国のファンの様子をもっとリアルに伝えていれば、もっと面白いものになったような気がします。

それがあまりにもパーソナルなものになったとしても、それはそれでよし。


まだまだ深く掘れそうな穴のようです。



深海に潜むももの/シャドウダイバー

シャドウダイバー


シャドウ・ダイバー 深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち/ロバート・カーソン
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シャドウ・ダイバー 上―深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち (ハヤカワ文庫 NF 340)/ロバート・カーソン
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シャドウ・ダイバー 下―深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち (ハヤカワ文庫 NF 341)/ロバート・カーソン
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こちらもフロンティアもの。


アメリカの東海岸、ニュージャージー沖。

地元の漁師に教わった、沈没船。

沈没船巡りを主催するスキューバ・ダイビング船の船長が、「未知の船」へのダイビングを仲間に募り、潜ろうとします。

水深70M。スキューバダイビングの限界に近い深度まで潜り、暗く、窒素酔いの激しい中で見た沈没船は、どうやらドイツの潜水艦「Uボート」らしい。


それから本当にUボートなのか、Uボートなら、誰が乗ったどのUボートだったかの確証探しが始まります。



しかしそこは70Mの深海。

ベテランのダイバーでも海底に入れる時間は20分。そして海面に上がるまでに1時間以上かけなければ、減圧症にかかってしまいます。

そして窒素酔いのため、わずかなミスも大事だと思い込んでしまってパニックになってしまいます。

しかも相手は40年以上も前から海底に沈んでいる潜水艦。

少しでも無理をして何かを取ろうとしたり、船室に入ろうとすると、予測もしないことが起こります。


すぐにドイツ軍のマークの入った皿は見つかるのですが、軍の記録を調査してみても、この潜水艦が誰が乗っていたか特定できるものが見つかりません。


ほかに職もあり家族もあるのに、正体不明のUボートに魅入られていく男達。

仲間も減っていき、安全に探せる場所は探し尽くしたところで、ある決断をします。
それは、・・・



単行本で527ページ。アメリカのノンフィクションにありがちな、周辺事項の資料だったり、謝辞だったり、執筆の動機だったり余計なところも多く、失敗かなぁと思いつつ本文に入ったところ、ぐいぐい引き込まれてしまいました。


厚い理由は登場人物の背景をしっかり書いているからで、この背景もめっぽう面白いです。


主人公の1人のチャタトンは、正義漢の天才ダイバー。「なぜこんなことが起こっているのか」ということを自分の目で知るためにベトナム戦争に志願して医療兵として参加し、紆余曲折があって自分の天職として「ダイバー」を見つけ、職業ダイバーとして生活していくうちにUボートにのめりこんでいくようになります。


もう1人の主人公はコーラ―。こちらは沈没船海から戦利品を取ることに夢中なダイバーで、海の荒くれ集団「アトランティック・レック・ダイバー」の一員。初めはチャタトンと合わないものの、何度か潜っていくうちにお互いの技量とその心が通じ合っていき、二人を中心にしてUボートの謎に迫っていきます。


そして、初めこのツアー主催した船長のネイグル。ダイバーとしての十分な技量を持ちながらUボートが見つかった頃からアルコール中毒がひどくなり始め・・・。



もちろん人物だけではなく、謎解き的な文書探しの展開もあります。

Uボートの専門家への聞き取り。アメリカ海軍の記録。ドイツ海軍の記録。市民の声。軍人の話。

アメリカ軍の専門の公文書を集めた図書館にも行き、ドイツへの行きます。

簡単と思われていたどのUボートかの確定は、専門家さえも超えた領域に入っていきます。



結局なにが面白かったのかといえば、もちろん「深海の冒険」も「未知の歴史」も面白かったのですが、そこまで狂騒に走らせる何か、が面白かったです。


別に金が儲かるわけでもなく(本になったのも、著者が偶然興味をもったかららしい)、なにかが見つかって大きく人生が変わったわけでもなく(むしろ失ったもののほうが多い)、自分の人生の一部として逃げずに立ち向かったというところに惹かれたのでしょうか。



まぁ、傑作です。

是非読んでみてください。

なか卯のうどんと素人の身勝手/夏から夏へ

夏から夏へ

佐藤多佳子


夏から夏へ/佐藤 多佳子
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2007年世界陸上大阪大会 の日本陸上の400mリレーの観戦記と朝原宣治末續慎吾塚原直貴高平慎士小島茂之 の取材記事。

もちろん「一瞬の風になれ 」の流れを引き継いで、爽やかで熱い内容になっています。


世界陸上はテレビでやっていたときは「またテレビで煽ってるよ。あぁ、結果でなかったね。やっぱり陸上はだめだな」と勝手に思っていたのですが、この本を読むと全然思い入れが違ってきます。


それぞれの選手の積み重ねてきた経験と思いが「日本で行う世界陸上」に集中されていく様子は、読んでいて緊張感が高まります。

それでいて大阪のホテル近くには食事のできる施設がなく、予選の夜「なか卯」でリレーメンバーが集まって静かにうどんを食べていた、といのはリアリティがありながらもなんとも奇妙なエピソードでした。


それぞれの選手についての取材も面白いです。朝原の余人には近寄りがたい独立独歩の姿勢や末續の恵まれなかった環境からのスタートで、どこかのタイミングで躓いていたら今の姿がないことなど、知らないことばかり。


そして塚原直貴、高平慎士、小島茂之もそれぞれ個性豊かでじつに速そう。


でもこういうのを読んでいつも思うのは、エピソードとしては朝原とかと同じぐらい面白いのだけど、塚原や高平や小島などは結局歴史に名を残すような記録を出せるのだろうか、ということ。


結局速いかどうかはエピソードではなく他のなにかのせいなのだから、こういった本で読みたいのは「結果にまつわるエピソード」であって「エピソードにまつわる結果」ではないのだから。「エピソードにまつわる結果」ならどんな記録でも物語になる。


あぁ、本当に素人ほど勝手で残酷なこという。


でも、この本読んで「がんばれ」と思わない人はいないと思ます。


「一瞬の風になれ」が面白くて、ノンフィクションOKな方は是非。



漫画界の異才の映画評論/映画に毛が3本!

映画に毛が3本!

黒田硫黄






茄子」で有名な黒田硫黄(アニメ映画「アンダルシアの夏」の原作)の漫画と文の映画評論。


黒田硫黄作品の消化しきれない異物感というのは、起承転結の分かりやすいストーリーではなくて、あえて物語りの地の部分をクローズアップすることでリアリティを出しているところにあるんではないでしょうか。

地すぎて追えないところもあるのですが。


で、映画評論も同じなんですね。

もちろん彼自身の評価もコメントもあるのですが、読み終わって感じるのはそういったところより、彼の目から見た映画の地の部分。


これを読んで、そういう書き方するのは生来のものなんだと分かったのが収穫でした。



ま、そういう作品なので新しい視点での映画評論というわけではなく、映画好き、黒田硫黄好き、もしくは潜在的硫黄ファンの人しか読んでも面白くはないのでは。


映画は幅広く、ディープインパクトからチキンランまで、アメリカン・ビューティーからロスト・イン・ラ・マンチャまで、硬軟、有名無名の映画を評しています。


千と千尋の神隠しいついても「帯を書いてもらったので微力ながら応援」としていたけれど、結構辛口評価でした。

「(自分の書いた)マンガとしては、けなし尽くすか誉め尽くすか、でないと揚げ足取り終わるのでちょっとまずかったと思います」とかいているのに職業意識を感じます。



茄子 上 新装版 (アフタヌーンKC)/黒田 硫黄
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まだあるフロンティア/世界一高い木

世界一高い木

リチャード・プレストン



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●世界一高い木

樹種:セコイア

名前:ハイペリオン

高さ:115.5m



アメリカにはレッドウッドというセコイアの木があります。

この木は非常に高くなります。

或るとき数人の男が「世界一高い木」を探そうと、それぞれが思いつきました。

大学教授からスーパーの店員まで、様々なひとが協力し離合し、新しい道具を発明し、新しい「樹冠」の世界を見つける、「世界一高い木」のノンフィクションです。



大体115.5mですよ。

1階が3mだと38階になります。

それが1本の木で真っ直ぐ立っているんです。

そんな木が林立している自然公園。

巨人の国に迷い込んだ気分なんでしょうか。

一度はいってみたいですね。


それからレッドウッドの天辺の樹冠は、有史以来誰も登ったことのない世界。

まだ手付かずのフロンティア。

冒険家として、開拓者として、科学者として、そこにハンモックを広げて眠るのはどんな気分なんでしょうか。



本の内容は、要は木に登ったり計測する話なので、退屈は退屈。
でも「フロンティア」という言葉に心惹かれる人は、木の上のフロンティアの話はなかなか面白いのではないでしょうか。


たとえば木に登るだけでも、他の木とは違います。

数十メートルまでは枝のないレッドウッド。

一番下の枝に釣り糸がかかるようにボウガンを撃ち、釣り糸に繋いだロープを枝にかけ、登っていきます。

他にも近くのそれほど高くない木から飛び移るなど、登り方もいろいろ。

でも当然、落ちたらよければ怪我をしますし、悪ければ死んでしまいます。



登場人物もなんだか面白いです。

富豪の家に生まれたのに、親からの支援は受けられずスーパーのレジをしながら木を探す人。

大学教授。

木の上で結婚式を挙げ、ナニまでする人。

こんな人物達が、木に負担のない登り方を考え、木の上を自由に動ける道具を自分達でつくり、木を守るルールを決め、「世界一高い木」を探します。


面白い人には面白い、私は久しぶりに「異世界」を堪能した作品でした。


ちなみに作家は「ホット・ゾーン」で有名なリチャード・プレストンです。



ホット・ゾーン―恐怖!致死性ウイルスを追え! (小学館文庫)/リチャード プレストン
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ばななについて少し/彼女について

彼女について

よしもとばなな


彼女について/よしもと ばなな
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「私」と仲のいい、いとこの「昇一」。

幼い頃は仲が良かったのですが、母と叔母さんが絶縁してその後の付き合いはなくなりました。

母は、魔術にのめりこみ、ある事件をきっかけに私は1人で暮らすようになります。

叔母さんがなくなったのをきっかけに、昇一が私のところにやってきて、私の元気のない様子を見て、その原因を探すための、過去への旅にでます。



めずらしくミステリ調で、読み進むうちにだんだんと状況が分かってくる構成で、最後に驚きの事実が明かされます。オカルトに足を踏み込みながらその暗黒面の周辺を周っている感じで、いつもの人間関係だけのものよりも若干テイストが違うかも。ま、そうはいってもよしものばななであることは確かですが。

他の作品との区別も、ライスカレーとカレーライスとカレー丼の差みたいなものです。



そうはいっても、ついよしもとばななを読んでしまう理由の一つが、自分に見えてなくて、よしもとばななに見えているものがあり、本を読むとそれがひしひしと感じられ、見極めようとするも見極められない、そういう部分ですね。


でもなんですかね。


きっと大切にすべき「何か」を分かっていて、それを大切にしないとどうなるか、というのを細かく想像できる。

そういう部分が、よしもとばななの才能なのではないでしょうか。

すっかりよしもとばななにはまっている私は公平な書評はできないのですが、普通の読者はどう読むのでしょうか。ちょっと気になるところです。


寄り道はなし/ザ・ロード

コーマック・マッカーシー

ザ・ロード


ザ・ロード/コーマック・マッカーシー
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意外に合いますね、マッカーシーとSFというのは。


舞台はアメリカ。

何かとてつもない災厄が訪れて、国家の機能が破綻し、マッドマックスか北斗の拳のような世界になったようです。

その世界で父と息子が、灰で覆われた世界の冬を南で迎えるため旅する、ロードノベルです。



しかし、西欧人は食料に困るとすぐ人を食べたがりますね。

マッカーシーらしく、ひどく残酷な描写が断片的に見られ、緊張感が高まります。


でも、要はどうサヴァイブしていくか、という話で物語が深まっていかない印象です。

襲われて逃げたり、食べ物が見つかったり見つからなかったり、いちいちは面白いのですが、若干ご都合主義に感じてしまうのは、イマイチはまりきれなかったからでしょうか。


それから、マッカーシーの読みどころを「運命」とみると、まぁそういう結論かと、妙にさめて納得してしまいました。

ラストはラストで賛否両論があるようですが、私はどちらでもOK。



マッカーシー作品を読むときの違和感は「運命」の扱いです。

今、現代人の悲哀の一つが「自分の運命は自分で変えられる」という、金科玉条です。

他の小説を読んでも

「こんながんばったからこんないいことがあった」

「自分はだめだから、うまくいかなかった」

「運命を変える」

という星のまわりをぐるぐる周っているような気がします。


そしてマッカーシーの「運命なんか決まっているから」論を読むと、何か新しい喪失感と開放感が感じられるのはなぜでしょうか。


なんだか新しい星を見つけた気持ちです。



それから一言。

マッカーシーの訳を行っている黒原敏行の解説は、いつも示唆に富み、理解を深めてくれます。

解説って9割5分はくだらないことが書いてあると思っていたのですが、認識を改めます。

書評というか解説とは、こうあるべきだ、というお手本です。



で、結論。

今のところ、個人的なマッカーシーの最高傑作は「越境 」です。

斬新で美しい舞台。不可解でも気持ち良い動機。無慈悲で物悲しい運命の流れ。すべてが一体となって小説となり、非常に印象深い読書体験となりました。

時間をおいてまた読みたい作品です。

いつもと違う幼馴染/血と暴力の国

血と暴力の国

コーマック・マッカーシー


血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)/コーマック・マッカーシー
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たとえばすきなデザイナーのTシャツが無印で販売されたら何かしっくりこない。

私にとって「血と暴力の国」もそんな感じです。


あらすじは、


偶然マフィアの大金を盗むことのできた元ベトナム兵のモス。

大金を持って逃げ出しますが、シュガーという殺し屋が追いかけてきます。

サイコパスともいえるシュガーは、追っていく過程でバンバン人を殺していきます。

そして、災厄のように増える殺人事件に動揺するその地区の老保安官。

この三人を軸としたクライムノベルです。



あの「越境」を書いたマッカーシーのクライムノベルということで期待したのですが、なんでしょうこの微妙な的外れ感。



きっとマッカーシーの書きたいことをクライムノベルという枠にはめたらこうなった、ということなんだと思います。

書きたいこととは何か。それは「運命」ということでしょう。


ここでは運命の執行者はシュガーです。


 マフィアの金奪ったらどうなるかわかってるんだろうなぁ。

 おれに敵対したらどうなるかわかっているんだろうなぁ。

 俺と約束したら、きちんと守るぞこのやろう。


そんな運命をサイコパスは実行していくのです。

ただ、そのクライムぶりがいまいちで、シュガーのはじけっぷりをもっと書いてもらわないと、限りなく普通のクライムノベルに近づいてしまうので、その意図がわかりづらいかったですね。


幼馴染の良いところはしっているけど、そのカッコじゃ君のいいところは分かりづらいよ、というところでしょうか。


映画のほうがずいぶんいいようなので、そちらは期待して見たいですね。

しかし、映画にしても本にしても邦題が、なんというか。

難しいですね。

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時代のフォーカスポイント/或る「小倉日記」伝


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松本清張

或る「小倉日記」伝



或る「小倉日記」伝 (角川文庫―リバイバルコレクション)/松本 清張
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松本清張の現代小説の短篇集です。


全あらすじはこんな感じです。


片足に障害があり、口にはよだれを一杯にため、言葉も明瞭ではない主人公。

頭脳は明晰なのですが、その分自尊心が高く就職もなかなかできません。

そんなある日、森鴎外の小倉に居住している時代の日記がないことに着目して、関係者に話を聞いて周り記録していくことに全力を傾けるようになります。それを続けていくうちに、収入は少なくなっていき、戦争は進み、そして・・・。

表題作或る「小倉日記」伝は、そんな青年の生涯を短篇にまとめたものです。


そのほか


才能ある歌人であり、妻である女が、凡庸な夫や子供を見捨て、歌道に邁進し、常道を逸していく様子を描いた「菊枕


婚約相手の断片的な記憶から過去を探る、ミステリ風の「火の記憶


代用教員から考古学者を志し、良妻を得るも恩師や関係者への辛口の論評のため次々と関係を断たれていく様子を描いた「断碑


学問に身を投じた学者がずるずると女にはまっていく様子を、ありきたりながら丁寧に描いて手垢を見せない「笛壺


終戦直後の朝鮮。アメリカ軍が日本人居住区に進入する際、アメリカ軍への日本人慰安婦を日本軍が選ぶこととなる。そうとは知らずにくじをひかされる女性たち。軍人達の誰もが手をつけられないほど気品のある夫人がくじをひく。そしてアメリカ軍がやってくるが、慰安婦は必要とはされなかった。そして帰国することになるのだが、なぜか軍人の夫人への視線が変わる。そして・・・という、事実は何も変わっていないのに、人の気持ちが変わってしまうという妙を書き出した「赤いくじ


学問で身を立てることもできないのに学問好きで、一生貧乏な商売人として過ごした父を想い、自分もやはり貧乏であることに嫌気を感じる「父系の指」


偶然化石を見つけたことで考古学に身を費やすもその成果を学者に取られてしまう生涯を描いた「石の骨


田舎のぽっとでの技術もない素人画家が描いた絵を買う有名画廊。それは有名画家への刺激のためであった。素人画家は自分の画力をわかってくると、技術を学び始める。そうすると画廊はなにも言わずに絵を買わなくなった。才能とそのタイミングが示唆に富む「青のある断層


一人暮らしの女性。世知辛い世では収入もままならない。恋人には妻があり、なのでいっそう尽くしてしまう。仕事先で融通してくれる男が、だんだんと自分に近づいてくる。そしてある夜、酔って自分の部屋にやってくる。しかしドアの外には人の気配が・・・、というまぁどうでもいい不倫話を人物をしっかり描くことで読ませる「喪失


不倫旅行で身の回りの品を盗難にあった小役人。政治家に助けを求め急場をしのいだものの、だんだんと弱みを握られていく「弱味


淡い思いを持ち合っていた従兄弟同士。それぞれに結婚はしているが、あることをきっかけに箱根に日帰り旅行に行くことになる。しかし、途中で交通事故にあってしまい、箱根に宿泊してしまうことになり・・・という、どうでもいいといえばどうでもいい、がしっかり描いてあるので読ませる「箱根心中



読んで感じたのは、いわゆるオヤジ週刊誌(新潮とか文春)とSPAの違いですね。

同じフォーマットでありながら、片方は「オンナ、カネ、チイ」を直接的に求め、片方はそれらをワンクッションおいて求める。


この短篇で書かれた基本的なところは「嫉妬」「羨望」などの感情です。

それだけなら凡百の通俗小説と同じなのですが、それを、よい題材、しっかりとした筆致技術と透徹した目線で書かれているのでついつい読んでしまいます。でもなんだかポイントの外れた感じ。それはきっと世代の求めるものの違いなのでしょうか。今の時代、今の世代を描いた松本清張の作品が読みたいなぁ、と感じました。



この本を読もうと思ったきっかけは、角川文庫の夏の100冊のブックレットにあった、京極夏彦が選んだ一冊として紹介されていたため。「松本清張は、往時の日本の姿をしっかり書き写してくれた人でもあります。・・・」とあり、前々から手をつけたかった松本清張の本を読むことができてよかったです。新潮社も集英社も夏のブックレットを読みましたが、一番工夫がしてあったのが角川でしたね。同じく金城一紀が選んだ小松左京の「霧が晴れた時」も読んでみたいと思っています。


ところで上の写真はなにが言いたいのかというと、レースです。

dharmabooks さんの本の畑 というブログが「芋蔓本っておもしろいなぁ」と思って読んでいたのですが、最近はすっかり編物の方 にご執心のようです。たまの更新はいつも読んでいたのですが、ある日キリ番でのプレゼント告知 。レースを見ながらまったく他人事、よその世界でしたが(今までの生活でレースに主体的に接したこともキリ番を踏んだこともないので)踏んでしまいました。いやぁ、あせりました。こんな理解のない人間がもらっても、と思いしばらく躊躇していたのですが、結局連絡を差し上げ、いただきました(家族が喜んでいます)。

でも、不慣れなもので飾る場所も思いつかなく、試行錯誤と多分の虚飾を交え、上の写真のようになった次第です。

dharmabooks さん、ありがとうございました。

ご連絡遅くなってすいませんでした。


いやぁしかし、ブログやっていると、こんなこともあるんですね。


暇な夏休み/ねたあとに

ねたあとに

長嶋有


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知らなかったですが朝日新聞に連載していたんですね。


相変わらずくだらないことを、ある種のセンスをもって書いていて「カッコつける」というものから遠く離れた日常を書く長嶋有ですが、長嶋家のおんぼろ別荘での避暑生活を書いた「ジャージの二人 」を、今度はバイト秘書らしき人の目からみた作品です。

お気軽なバイトの目線からの視点なので、前回にましてさらにライトな筆致です。


暇な避暑生活を滞在者がなにでつぶしているかというと、麻雀パイで競馬をやったり、モンタージュ形式で「顔」を作ったりで、まぁ本当に生産性はありません。そして登場人物の作家が賞をとったり、作品を書かなかったり、あいかわらず別荘の中には虫がいたりしても、別段大きな変化はありません。ただ、その別荘に流れる長嶋家の雰囲気は「暇な夏休み」にぴったりです。


「ジャージの二人」が気に入った方には、シリーズものとしておなじみの世界が楽しめます。

脱力の裏に気品もないながらも世に迎合しないといった意志感じられますが、ストーリーは展開しないし、ためにもならない分、長島家のセンスが十二分に楽しめる作品です。

ま、センスだけで作品作ってすごいなぁとか、描写技術は上がっていなぁとか色々ありますが、娯楽作品として読むのが一番いいと思いますが、ずいぶん狭いところをつくなぁ、と思います。


全然違う作品ですが、ゆうきまさみ超人R を思い出させますね。なんだか。古いか。


究極超人あ~る (1) (小学館文庫)/ゆうき まさみ
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