舞城は元気か | できれば本に埋もれて眠りたい

舞城は元気か

minnagenki kemuri

舞城王太郎
みんな元気。「Cuckoos & The Invisible Devile」
煙か土か食い物 「Smoke, Soil or Sacrifices」


結果的に、最新作とデビュー作を同時に読むことになってしまいました。

みんな元気。」
あらすじは、竜巻に乗ってある家族が現れ、主人公の妹を奪っていきます。
家族を失った主人公「枇杷」は・・・、という内容ですが、まっ、あらすじはどうでもいいでしょう、舞城王太郎なんで。展開でどんどん読めるのは確かです。
ただ、「阿修羅ガール」から続く女子高校生口調でも、人の心理をリアルに扱う技はさすがです。娘を奪われて何年も後悔し続ける父、姉に似ていることで誰とも付き合えない枇杷、妹の代わりにきた新しい弟の喪失感。
圧巻は最後、人生の選択肢を同時に味わう場面でしょう。3人の夫との記憶と家族を同時に体感する場面は、さすが舞城です。
そのほかにも短編が収録されていて、「Dead of Good」の暴力的なイメージ、「我が家のトトロ」のトトロがみえることへの考察、「矢を止める5羽の梔鳥」の暴走、めずらしくまっとうな「スクールアタック・シンドローム」の親子の心理戦、どれも切れ味鋭い心理分析と暴走気味の展開の楽しさを味わうことがでしました。
1冊読んでの感想は、抜き身の刀。
切れ味はあるのに収まるところがない。

方向性の定まらないまま、一体どこにいってしまうのか心配です。
舞城王太郎に全体小説を書いてもらいたい、と思っています。
今風じゃないけど。


で、出世作、メフィスト賞を取った「煙か土か食い物」。
スーパーな探偵が力ずくで事件解決、みたいな痛快ミステリーと思っていましたがそんなことありませんでした。
幼少期のトラウマの執拗な記述は、書き出したらただでは終われない舞城王太郎ワールドの現れでしょうか。ただ、今読むとミステリーにしてもノアールにしても中途半端かな。


ちなみに「みんな元気。
表紙はかわいいのですが、このタイトルでこの絵は、舞城王太郎知らない人にはちょっと誤解されてしまうかも。
でも片山若子 さん、いい絵です。