戦地での少年達の適応/悪童日記 | できれば本に埋もれて眠りたい

戦地での少年達の適応/悪童日記

悪童日記

アゴタ クリストフ


悪童日記 (ハヤカワepi文庫)/アゴタ クリストフ
¥651
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戦時中、田舎の意地悪なおばあさんに引き取られた双子の日記です。


まだ食べ物の残る田舎に疎開にきた二人ですが、働かざるもの食うべからずを実践するおばあさんは、過酷な労働を二人に課しますが、二人はそれを「訓練」と受け止め、日々精進していきます。


さ口汚いおばあさんは、さらに二人に「売女の子供」などといいますが、それも二人でいるときにお互い罵りあう訓練をして、どんな罵詈雑言にも耐えられるようになります。


万事その調子で、混乱した戦時中の世界を、生きるために必要な力を第一に、それに少しの理性を加えて、二人が逞しく生きていき、次第におばあさんにとってもなくてはならないパートナーになっていきます。


戦争は進み、町は敵軍に占領され、おばあさんの家にも敵の将校がきます。

しばらくいた後敵軍は去り、また新たな占領が始まります。


森のはずれで死んだ敵軍のしまつ、近所の見捨てられた少女、背徳の牧師、おばあさんの秘密などありとあらゆる機会を利用し、二人は盗み、助け、脅し、盗み見など悪徳に躊躇なく手をつけ、自分に有利な地位を築き、それでいながら、近所の恵まれない少女を助け、依怙地なおばあさんにあった優しさで仲良くやっていくなど自分達なりの価値観を押し通していきます。


そのタガのはずれた理性の鋭さが恐ろしくもありながら、そうせざるを得ない状況を作り出す戦争が感じられます。


しかし、一番怜悧なのが作者でしょう。

戦争状態で人々が行う様様な悪徳を、あえて罪のない双子にやらせることで際立たせる手法は、善悪を冷たく見据えるまなざしがなければできません。


さらに本は続くようですので、次が楽しみです。