ぬかみそと性の起源/沼地のある森を抜けて
沼地のある森を抜けて
梨木香歩
- 沼地のある森を抜けて/梨木 香歩
- ¥1,890
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なんとも評しがたい、梨木香歩らしい良い作品でした。
あらすじは、
叔母の死により引き継いだ家宝のぬかみそ。
分けのわからぬままかき回しているとぬかみその中に卵が生まれた。
それが孵り、生まれてきた見知らぬ少年は、じつは幼馴染の親友だった。
幼馴染がが少年を引き取ると、今度は毒舌の老婆。
この老婆を相手にしながら、やがて知る家族の秘密。
男性性を捨てた知り合いと先祖の住む地にぬかみそを持って戻っていくと、
ぬかみその謎が生命の謎へと内包されていきます。
前半は、「日常+ちょっとSF」という感じで、クールで理知的な主人公が、突然のSFに戸惑う、といった感じで、キャラもたっているので十分に面白く、その細かな対応など梨木香歩の小説の技術の高さが窺えます。このまま終われば不思議系エンタメ小説として十分通じるようなできです。
中盤、ぬかみその謎を解き明かす段階で、梨木香歩らしい独自のこだわり、男性性へのうっすらみえる違和感だったり、人の想いとその形だったり脈々とつながる家系と生命などが、登場人物に託され語られていきます。
そして突然入る観念SF小説のような挿話。村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の世界の終わりのような感じです。
そして終盤は、ぬかみその本拠地に舞い降り、そのSF的設定の風呂敷をたたみながら、生と性について壮大な語りとなります。
相変わらず他の作家と事なるテーマをもっている小説で、先の読めない展開は非常に楽しく読めました。
梨木香歩にとって世界の違和感の大きな一部に男性性というものがあり、それを理解するには、性の起源までさかのぼらないと納得できないもんなんだな、と思いました。
そういった構造は分からないでもないですね。男性性に限らず。分からない、違和感を感じるものを、独自の理詰めで。納得できるところまで押しきる、みたいな。
梨木香歩のそういった、他の小説にないものを小説にする力は、やっぱり読む価値が備わっているように思えます。
センス・オブ・ジェンダー賞 をとっているんですね。
そんな賞あるんだ、という感じですが。