小説巧者の過渡期的作品?/エンジェルエンジェルエンジェル | できれば本に埋もれて眠りたい

小説巧者の過渡期的作品?/エンジェルエンジェルエンジェル

エンジェルエンジェルエンジェル

梨木香歩



エンジェル エンジェル エンジェル/梨木 香歩
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いやぁ、上手いですね梨木香歩


少し介護が必要になってきたおばあちゃんとその孫の話。


精神的に自分で自分を少し制御しかねている孫が自分のために魚を飼い始めます。

そして少し認識が定かではなくなったおばあちゃんの介護をしていると、おばあちゃんの思い出が水槽を介して浮かびだし、孫に語りかけ始め、孫とおばあちゃんの少女時代の物語が交互に進みます。


かつての少女の話は旧字体で美しく綴られ、現在の孫との会話・水槽の中のできごとと絶妙にシンクロしていきます。


個人的に良かったのは、最後の場面


「神様が、そういってくれたら、どんなにいいだろう」

「え?」

「私が、悪かったねぇって。おまえたちを、こんなふうに創ってしまってって」


と、何の解決でもないですが、自分の責任を何かに預けることで、ひとまずの休息を得、解放されるところです。



とまぁ要約する話でもなく、孫のナイーブな心持とおばあちゃんの少女時代の文体を存分に味わいながら小説の中にちりばめられた様々な伏線を味う作品です。



私自身が梨木香歩に求めるものは、他の作家にないオリジナルなテーマなので、この作品のように比較的既知のものを巧みに書く、というのはちょっと求めるところとは外れますね。


でも、そうか、まずこの小説技術があっての、作品群なんだ、と明瞭に分かってよかったですが。


そして随所に渡る慧眼を研ぎ澄ますことで、オリジナルな作品が生まれたのだな、とも分かりました。