舞城流の解釈/熊の場所 | できれば本に埋もれて眠りたい

舞城流の解釈/熊の場所

熊の場所

舞城王太郎


熊の場所 (講談社ノベルス)/舞城 王太郎
¥819
Amazon.co.jp


熊の場所/舞城 王太郎
¥1,680
Amazon.co.jp


熊の場所 (講談社文庫)/舞城 王太郎
¥420
Amazon.co.jp


熊の場所」「バット男」「ピコーン」の入った短篇集。


この作品の特徴は、現代的なテーマを舞城流に解釈した作品で、SFも突飛なミステリもない比較的普通の小説なので、結構読みやすいです(「ディスコ」と比べると。薄いですし)。


熊の場所」は、友人に猫殺しがいるという状況で、自分はどうするか、というもの。

熊の場所、というのは、主人公の父が若い頃、ユタ州の原生林を友人と歩いていたところ、熊に出会って逃げ出して、友人がこけて父は自分の車まで戻って、落ち着いたところで「このままだと自分は一生森を怖がってしまうんだろうな」と思い、拳銃とスコップを持ってすぐに戻って、熊を殺した、というエピソードから。

友人のランドセルから猫の尻尾が転げ落ちたときそれについて指摘しようとして「あっち行け阿呆、殺すぞ」といわれてびびってしまい、でも熊の場所のエピソードを思い出して、友人に再度接触して、その後・・・、

という感じでやはり熊の場所のエピソードが秀逸。


バット男」は、愛しあっている高校生の女性側が男性を信じきれずに他の男の子をはらむみ、でも二人は結婚して、それでも男の愛を信じられなくて、やがて子供と失踪してしまうとき、男は、という話。

バット男は、いつもバットを持っているホームレスが、他人を脅しては自分の持っているバットで逆に殴られる、その不幸なサイクルの象徴として表現されています。


「ピコーン」は、地元の不良グループに属している女性が、じつは頭脳明晰で、彼氏と二人で働いて暮らしているうちにやっぱり大学に行って二人で幸せになろう、と思っているところに彼氏が猟奇殺人にあってしまう、という話。ピコーン、その女性に推理がひらめいた時の効果音で、推理はどうでもよく、最後の猟奇殺人犯を素のままで両親に謝らせる、というところが書きたかったんじゃないかと思います。


どの話も救われなず、救わない話で、それでもその中に何らかの+αを入れるのが舞城流なんでしょう。

他の作家であれば、情景描写だけでアップアップで終わってしまいますが、そこから自分流アレンジと+αを入れてしまうのはさすが。