理系エッセイの落としどころ/生物と無生物のあいだ | できれば本に埋もれて眠りたい

理系エッセイの落としどころ/生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ

福岡伸一


生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)/福岡 伸一
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てっきり「生物」と「無生物」を分けるものはなにか、ということについて詳しく書かれたものかと思ったのですが、実は「生物」と「無生物」をテーマに、DNAの歴史や作者の研究生活を語り、最後に筆者の言う「動的平衡」にたどり着く、というエッセイでした。


初めはキャッチ―な野口英世の、実はアメリカでは評価されていない話題から入り、DNAの二重らせん構造発見にまつわる陰の人々についての話題を、DNAを分かりやすく説明しながら語っていき、最後は筆者の語る「生物と無生物の間」の概念として「動的平衡」という概念を説明しながら、筆者の研究対象であった「酵素を運ぶ際にいかにして細胞膜を越えるか」という研究について書かれています。


DNAの発見にまつわる物語は良くまとめられていて、まさに「レース」といった感じで、地道に努力を重ねる人、その成果を分かっていない人、あるヒントをきっかけに構造を思いつく人、色々で、個人的にはこうやって科学はより早く進歩していくんだな、と思いました。


動的平衡とは、動物の体は摂取した栄養とどんどん置き換えられていき、たとえば数ヶ月前のカラダとまったく同じたんぱく質はカラダにはなく、すべて摂取したものと置き換えられている、ということです。


なるほど、と思いつつ動的平衡の生物学的意味や実証を行うのではなく、動的平衡についての説明を簡単に終えた後、自分の研究であり動的平衡の構造を支える「酵素の細胞膜の越え方」についての研究についての説明と他の研究者との競り合いについて話になるので、読み終えて「で、結局その間にあるのってなんだっけ」という感じになりました。


面白かったのですが、その読後感のすっきりとしない感じが高評価を妨げます。


「生物と無生物のあいだで」


というタイトルならしっくりきたのですが。


論考なら論考で自分の研究を語らず、自分のエッセイなら藤原正彦若き数学者のアメリカ」のように自分の観点をもっと述べる、としてもらったほうがいいのでは、と思いました。

せっかく、DNAの話も面白く書け、自分の研究やその周辺についてもうまく書けているので、焦点がぼやけてもったいないなと。


その間の新しいところを狙っているのでしょうか。



2006年、第一回科学ジャーナリスト受賞作だそうです。




若き数学者のアメリカ (新潮文庫)/藤原 正彦
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