研究者のひとり言/ゆらぐ脳
ゆらぐ脳
池谷裕二・木村俊介
- ゆらぐ脳/池谷 裕二
- ¥1,300
- Amazon.co.jp
ライターの木村俊介から脳研究者の池谷裕二に、脳についての一問一答形式の本です。
日本経済新聞夕刊に2007年7月から連載されたものの抜粋。
脳の最新研究を分かりやすく本にしてきた池谷氏ですが、この本では最新研究をまとめる、というより今考えていることを話す、という感じの本になります。
そのため内容がまとまっているものではなく、非常に散文的に脳のこと、研究のことが語られています。
脳のことで面白かったのは、一つ一つの神経細胞のことは分子生物学的に少しずつ分かってきているようですが、その細胞を集めた「回路」的振る舞いについての研究はまだまだされていないということです。
というかその研究のやり方さえ暗中模索中。池谷氏を含めた少数派が研究しているという感じでした。
研究のことで面白かったのは、研究の実感について、毎日神経細胞の相手をしていたら、研究とはべつのところで細胞の質感のようなものが分かってくる、ということです。
論文としてはいえないけれど、立ち上ってくるにおいのようなもの。
なんかそういうのってありますよね。
最後のあとがきでは面白かったのは年代の話ですね。
「・・・少なくとも今の私は二十代には戻りたくはありません。あの無意味に有り余ったエネルギーをぶつけ合う無駄な時間(それがヒトの「成長」には必要だという意見もあるでしょうが)は、得るものより失うもののほうが多く、疲労だけが残る。二十代という時は、今振り返ると、加熱した感情と無根拠なプライドだけが先走った時期だったように思います。少なくとも私はそんな研究者でした。」
一般論として読むこともできますが、あの飄々とした語り口の池谷氏がそんなふうに思っていたとは、全然分かりませんでした。なんだか研究の実感も湧いてきます。
脳の知識を得ようと本書を開くとその散文的な構成に混乱してしまいますが、ある研究者のひとり言と思えば、なかなか楽しむことができました。