1965年のノンフィクション・ノヴェル/冷血
冷血
トルーマン・カポーティ
- 冷血 (新潮文庫)/トルーマン カポーティ
- ¥940
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40年以上前のノンフィクション・ノヴェルは、と思ってましたが、読み応えのある本でした。
カンザス州の農村地帯で起きた一家殺人事件の物語です。
豊かな大地が広がるカンザス州で、着実に農業で成功を収めていき、誰もが信頼する地域のリーダー格となった農夫、いまでいう軽い精神病的なその妻、溌剌として楽器の練習からケーキの焼き方までいろいろなことに頼られてしまう娘と夜な夜なコヨーテを自動車で追いまわして遊ぶようなやんちゃな息子。そんな日常がはじめは興味深く語られていきます。
犯罪者の片割れは高校卒業後自動車整備工として働き始めるも小切手詐欺や窃盗などをはじめ、刑務所へ。もう1人は幼い頃から貧しく恵まれない家庭に育ち、両親が離婚、母についていくもアル中で、結局孤児院へ行き、そこに父が引き取りに。父はいわゆる「タフガイ」で金儲けはできないが様々な仕事はでき、アラスカで一緒に猟などをして暮らすも、父から離れ軍隊に。そして軍隊でもなじめずに、犯罪に手を染めるようになり、刑務所に。
刑務所で出会った二人は、出所後落ち合って、カンザス州に向かいます。
その二人が一家を襲うのですが、あまりに短慮で、その後の行動も行き当たりばったり。犯した犯罪とその行動のバランスの悪さに底冷えがしてきます。しかし、一家の生前の様子から、犯人の事件前後、逃避行、逮捕後の様子までを淡々としながらも会話や情景描写も細部まで書き、事件そのものというより、事件周辺の歴史・地史や社会・人間関係が浮かび上がり、事件自体の瞬間的な衝撃よりも、重い鈍い衝撃が残りました。
40年以上も前の作品だと、余計な主義主張が入り読みづらいかな、と思ったのですがさすが自称「アル中でホモで天才」のトルーマン・カポーティ。長い年月を経てもまったく色あせない作品でした。
「ティファニーで朝食を」は大して感心はしませんでしたが、こちらは良かったですね。なんか読んだことあるなぁ、と思っていたらなんとなく吉田修一の「悪人」 に似ているな、と思いましたが、「悪人」よりも「冷血」の方がずっと残るものがあります。