28年前の小説誌/街と、その不確かな壁 | できれば本に埋もれて眠りたい

28年前の小説誌/街と、その不確かな壁

街と、その不確かな壁

村上春樹





村上春樹の傑作(といわれる)「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の前身の作品。

本人が全集の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の「自作を語る」で「僕はこの『街とその不確かな壁』という小説を『1973年のピンボール』のあとで書いたのだが、このテーマでものを書くのはやはりまだ時期尚早だった・・・この小説を活字にしたことについては今での少なからず公開している」と書いています。


そうはいっても、村上春樹の本はほとんど読んでいるので、ファンとしては一度は読まなくてはと思っていたのですが、機会があったので図書館の書庫から文学界昭和55年9月号を出してもらい、読んでみることにしました。


これは「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の並行に進む話の「世界の終わり」側の元の部分のようですね。


壁に囲まれた街からやってきた女の子の影にしたがって街に入り、そこで過ごす日々。

街での奇妙な生活に慣れていくも違和感を感じはじめて・・・。


と、まぁ半分は「世界の終わり」、残り半分はオリジナル、ですね。

世界の終わり」だけなので観念小説のようになっていて、非常にとっつきにくい作品です。

本人が「話をもっと相対化させなければいけない」と思ったのも、至極納得。

まぁ、それでエンターテイメント的な「ハードボイルドワンダーランド」を同時並行させようとは、普通はなかなか思わないですが。


ウィキペディアの解説 が非常によくできているので、これを読んだほうがわかりやすいぐらいの作品でした。


それでも面白いのは、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」との対比ですね。

ラストは違っているし、「影」や「夢」についても比較的はっきりと書かれています。

世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」について、曖昧なところを考えるのにちょっとは役に立つかもしれません。



しかし「失敗作」と思って読むとダメですね。なかなか素直に読めなくて苦労しました。


でも、こうやって「発掘」するのは、なかなか面白い。むしろ本を読むまでの方が楽しむことができたかもしれません。


それから28年前の小説誌を手にとって、久しぶりに古本の匂いと黄ばんでざらざらとした紙の感触を味わいました。目的以外のページを見ても、知らない作家がほとんど。そうか時代も変わったからなぁ、と一瞬思いましたが元々小説誌なんて読む習慣がないので、たぶん最新号を手にとっても同じ感覚だと思います。28年前が意外に遠く感じられません。きっと28年前の自分と小説誌の距離が変わってないからなんでしょう。



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