才能の見切り方/一瞬の風になれ
一瞬の風になれ
佐藤多佳子
- 一瞬の風になれ(全3巻セット)/佐藤 多佳子
- ¥4,515
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高校生が主役のスポーツ青春小説なんて初めてか、と思いながらも結構ジンときました。
面白かったです。
あらすじは、ざっくりとはこんな感じです。
プロにスカウトされるほどのサッカーの才能を持った兄。
大好きな兄より努力をしているのに結果が出ず、その才能の差に、サッカーに壁を感じる弟。
中学を卒業し、短距離に才能のある幼馴染と同じ高校に入り、サッカー部に入らず、陸上部に入部。
好きだった「かけっこ」の感じを思い出しながら、短距離・リレーとだんだんと陸上の魅力を感じ、そして部の先輩同期、そして後輩との関係を徐々に構築して、陸上部にはまっていきます。
短距離の上手く走れたときの達成感や、一発勝負の400Mリレーの緊張感と仲間との連帯感など陸上の魅力の十分に語られていますし、絶対的才能を持つ兄や、才能があるも根性のない幼馴染との関係もしっかりと書かれていて、単なる陸上小説、というわけではありません。
でも個人的によかったところが、サッカーの才能に限界を感じて陸上で改めて自分の才能を見出し、努力とともに結果が出て行くところが、一度挫折を経験している分深みを増しています。この一点で他のスポーツ小説よりも味わい深くなっています。
これを読んで、そうそうやっぱり努力には結果が伴わないといけないし、そのためにはやっぱり才能があることに努力を注ぐことが一番、というのを改めて実感しました。単純なことなんですがね。
それから競技的には陸上のリレーはあんなにも一発勝負なものとは思いませんでした。
いつも失敗の危険をはらみながら、高レベルなバトンパスをしていたんでしたね。
リレーなんてオリンピックぐらいしか思い浮かびませんが、オリンピックみたいな場で、同じクラブでもないのにコンビネーションを高めるなんて、結構リスクがあることなんですね。
佐藤多佳子について。
過剰でない書き方、たとえば「イチニツイテ・ヨーイ・ドン」の間に過剰な作家なら山盛り想いをのせていくでしょうが、さっくりいきます。「ドン」も書かない。はじめは肩透かしな感じでしたが、次第にしっくりきました。いいですね。
「しゃべれども、しゃべれども 」「神様がくれた指 」とそれなりにひねった作品を読んだあとに、こういうシンプルながらそれなりき小技をきかした作品を読めたのは良かったです。
でも気になるのは少しタイトルがオーソドックスなことでしょうか。
その辺も過剰になり過ぎないように気をつけているんですかね。
ま、何はともあれ時間を忘れてしまう本でした。
年に一度はこんな作品を読むのもいいもんです。
うーん、できれば自分が高校生のときに読みたかった作品かもしれません。