大丈夫です、意味なんかありません/宿屋めぐり | できれば本に埋もれて眠りたい

大丈夫です、意味なんかありません/宿屋めぐり

宿屋めぐり

町田康


宿屋めぐり/町田 康
¥1,995
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この厚さ(602頁)はいったい・・・、と不安でしたが、手に取ったあとはいい意味でも悪い意味でも予感はあたりました。



刀を帯刀した主人公が旅をしていて、ある寺に入ったところ僧兵に言いがかりをつけられ、なんだか殺してしまい、仲間の僧兵に追われて逃げ出すと湖から湧いて出てきた条虫の中に入ってしまい、その条虫の中でまた異世界が広がり、旅を続ける、という作品です。


条虫。意味がわからないですか。いや、私も分からないです。でもとにかく最初100ページぐらいなんとか読んでみました。

いつもどおり進む町田節と内省と他人への批判が延々と続き、文章、段落ごとの意味はあるのですが通すとその意味が分からない。


一応主人公には主がいて、これが恐ろしい主でとにかく主の命令を聞くことが主人公の第一なのですが、犯罪者に間違われて逃げ出し、いじめっこに会って復讐を果たせず、賭場に行き賭場を荒らし、奇術をやってうけて街を壊し、偽善劇団にちょっかいを出して逃げ出し、おばさんになって・・・、と場面場面で流されていきます。


なんだこのミクロ視点の筋無き思いつきの展開は、と読んでいくといちいちのエピソードの切れ込みの深さに、「そんな筋だの、意味だのいうけど、あんたの今の人生に筋だの意味だのはちゃんとあるの?場面場面の積み重ねで意味なんかないんじゃないの」というのを言外に延々と言われているような気分になっていきます。


ああ、これは町田流の生の羅列なんだと分かると、あとはエピソードをその場その場で楽しんで602頁です。一応最後に総括がありますので最後まで読む意味はありますが、結局は「宿屋めぐり」です。痛い部分を触るのをやめられないように、町田節を楽しむのがこの本の読み方なんではないでしょうか。


町田康の癖になる文章とけれんの下の細やかな洞察力を持ってしてできる、この筋なき小説。いわば極北、一つの達成点ではあるとは思いますが、この先、新作がどんな作品に成っていくか心配です。


あと余談ですが、ブログを書いているうちによしもとばななにその到達点が似ているような気がしてきました。あの卓越した洞察力、表現力、と小説ごとに区別のつかない恋愛のエピソード。各小説ごとに意味があるのではなく、同じことを違う形で表現していく様子は、今回のエピソードの羅列に重なります。ある種の作家の到達点というのは似てくるものなんでしょうか。それともそういうものが小説なんでしょうか。