父性な女と母性な男/ばかもの | できれば本に埋もれて眠りたい

父性な女と母性な男/ばかもの

ばかもの
絲山 秋子

ばかもの/絲山 秋子
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最近の作品は個人的にはがっかりなものが多かったのですが、きましたねいい奴が。

個人的には絲山秋子の最高傑作だと思っています。


作品は、ハードなセックス描写から、ひどくぶっきらぼうでなにを考えているか分からない女に、男がひどいふられ方するところで始まります。

男はまだ大学生で、なんとなく大学を卒業して就職。どこにでもいるような男なんですが、流れるように酒を飲み始め、アル中になっていきます。

アル中の、ああもうだめだなこりゃ、という寸前まで行って、偶然、別れた女の母のやっている店を訪れ、かつての女の詳細を聞きます。

その辺りをきっかけとして、アル中を直す決心をして、専門病院に入り、治療したあと、女に会いに行きます。

そして・・・。

中毒っていうのは、結局自分を律しきれないで、何かにおぼれていくことだと思っています。それが薬であろうがアルコールであろうがチョコレートであろうが同じです。この主人公の男も、基本的には何にも問題のない男だとは思うのですが、自分を律する、という点で若干弱い。その部分を上手くコントロールできないと、沼の中心を目指して歩いていくように、どんどん身動きができなくなっていきます。


そして今まで絲山秋子がよく書いていた人物像は、自分や周りのゆるんだ状況を許せない人、その人のなれの果て、です。気性は激しくも気は周り、行動力もある、でも律しすぎるんですね。それで色々なものが許せなくなり、生きづらくなる。


これは何かというと、母性と父性なんだと気がつきました。

優しさと厳しさ。どちらも度が過ぎれば毒ですが、足りなくても問題がでてきます。

そうしてこの二人は最初の出会いのときは、セックスが中心だったものの、じつはお互いに上手く相手を補い合える仲だったんですね。でもそれに気づかず分かれてしまい、お互いの凸と凹はより深くなっていってしまう。

そして再会したときは、お互いに深くなった凸凹をやっぱり補い合える奇跡が起こるんですね。


男と女が出会ってしばらくして、あるきっかけで男がまた酒を飲もうとすると、女から瞬間的に手が出るんですね。

この場面でまさに他人も自分も傷つけるお互いの凸凹が合わさった場面ではないかな、と感じた名場面でした。


絲山秋子は父性の人。そして母性を上手く書けるようになれば作品に深みが出ます。

これを意識できたのなら、絲山秋子の一つのブレイクスルーになるんではないでしょうか。


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読んでいただいているみなさん。

お久しぶりです。

4ヶ月ほど間が空いてしまいました。

なんだか色々な事情がちょっとずつ重なり、ブログの更新ができませんでした。

期待して見ていただいていたら申し訳ございません。



仕事が忙しくなったとか、家に親・兄弟がしばらく泊まっていたとか、色々あるんですがやっぱり一番は、マンネリでしょうか。

なんだか本を読みながら自分の書評が想像でき「書評製造機」になってしまったような気がしてきて、忙しくなったのを機に、なんとなく書くのをやめてみました。


それでも本はもちろん読んでいたのですが、「ばかもの」を読んでいたら、ふと「父性と母性」というキーワードがでてきて、このキーワードで作品の構造が分かりやすく読めるのではないかな、と思いました。


そういうことを思いつくと、ついブログを書きたくなってしまいます。

結局私はマンネリの書評が書きたいのではなく、そういった本を読んで書評+αが書きたいのだな、と自覚した次第です。

毎回とはいいませんが、+αを書いていけたらと思います。

もしよかったら、引き続き読んでやってください。