作家と博物学者と医者と薬屋/コンゴ・ジャーニー | できれば本に埋もれて眠りたい

作家と博物学者と医者と薬屋/コンゴ・ジャーニー

コンゴ・ジャーニー

レドモンド・オハンロン



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Pennant-winged Nightjar


ようはコンゴの旅行記なんですが、作者のオハンロンが何しに行っているかといえば「モケーレ・ムベンベ 」を探しに行っているんですね。

では、矢追純一 かというと、そういうわけではありません。むしろ「モケーレ・ムベンベ」は口実で、実際はなんだか面白いところに行ってみたい、そういうものみたいです。最初の作品はかつての首狩族の地ボルネオにボルネオサイ を見に行く「ボルネオの奥地へ」ですし、その次はアマゾンに地球上でもっとも凶暴な民族ヤマノミ族 に会いにいく「In The Trouble Again」(未訳)という作品です。



で、今回はアフリカのコンゴなんですが、まぁ厄介な土地でして。

まず保護区域に入るので政府の許可が必要で、それには人脈と賄賂が必要。

やっとこ、許可を得てまずは巨大な船でコンゴ川を上るのですが、ここはすでにアフリカ。途中、小船に衝突して、小船が転覆して、乗っていた人が他の地元の船に救助されるのですが、乗っていた少年が川に投げ出され、そのまま視界から消えてしまう。オロンハン以外誰も気づかないまま。

途上船には数千人が同乗しており、その途中、病気で子供が死んでしまう。実にあっけなく人が死んでいきます。このあたりで、良く知っている旅行記とは違うことが分かってくるんですね。



さてこの本の読みどころは色々あると思うのですが、個人的には博物学的な楽しみ。道中目に付く動物植物病気や人々の風習に、現地の生物学者で好色なガイド、マルセランや、途中まで一緒に旅する動物行動学の博士であるラリー、そしてオハンロン自体も生物学には詳しいので、様々な説明がはいります。



たとえばオハンロンが気になった木についてマルセランに聞くと


「森の木を全部知っているのは、マイク・フェイとピグミーだけよ。だが、とりあえず、これはアブラヤシだ。」「収入の源泉だ。これなしでは生活が成り立たない。果肉からはオレンジ色の油、種からはカーネルオイルが取れる。ま、上流に行けば全部見られる。油は料理に使うし、もちろん、石鹸やマーガリンの材料として白人に売る」(にやりと笑った)「樹液も集める。幹の成長に点の近くか、根元の辺りなたで傷つけて・・・」「あとはバケツかヒョウタンをぶら下げておけば、ヤシ酒のできあがりだ。だがな枝分かれしているアブラヤシがあったら、手を触れるなよ。見向きもするな。呪い師の木だからな」

「カンチウムだ」とマルセランは言った。「これにも触るな。こいつの皮にはアリがうようよしていてな、触ると噛むぞ。それに花が咲くと、死人のようなひどい臭いがする。受粉の媒介をするのはハエだ。ハエが花粉を運ぶ。ま、そういう木だが、なくてはならない重要な木でもある。なにしろ、占い師がこの木から呪物を作るからな。世襲村長が象徴として持つ杖も、この木から作る」


とこんな感じで、植物動物の博物学的知識が満載で、楽しめます。


それから、途中で見る病人(マラリア、イチゴ腫などもろもろ)にバンバン薬をあげていくのがいいですね。自身も病におびえながら病や怪我をみたら抗生物質やらなんやらを惜しみなく与えていきます。病気の知識とそれに対する優しさも、他の探検記にはあまり見られないものでした。


そしていよいよ都市を離れ熱帯雨林の中に入っていくとそこは力と呪術の世界。

一応の目的である「ムケーレ・ムベンベ」のいるテレ湖は、ある村の聖地で、その村民にマルセランはうらまれています。隙があらば本当に殺そうとしてる村民を避けながらなんとテレ湖に「向かわなければいけません。

そして同行している現地人から、呪い師・お守り・噂・妖怪?サマレの話を聞かされていくうちに、アフリカの「呪い」が日常として理解できるようになってきます。


ピグミーにも会い、ワニも捕まえ、幻想もみて、ゴリラの赤ちゃんを預かって、といろいろ話題にも事欠かず、知的なラリーやマルセランとの会話も楽しめます。


さて、それで結局、雰囲気たっぷりのテレ湖にいって、「ムケーレ・ムベンベ」は見つけることは、できたのでしょうか。

私は読みながらあまりにも濃い状況に「もう見つからなくてもいいよ」と思いましたが。



最後に気が付いた最大の驚きは、この旅行はオロンハンの私費で言っているということですね。ガイドに金をせびられて「もう銀行口座にはお金はない」と答えるところで気が付きました。いやー、ひも付きじゃないなんて、どちらかといえば狂気に近い衝動ですね、これは。


ちなみに最新作は借金を抱えた船長のトロール船に乗り込むのですが、これも楽しみ。日本語訳はでるのでしょうか。



ちなみにこの本はわたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる の「この本がスゴい2008 」で知りました。

Dainさん、ありがとうございました。