黄金の時間/越境 | できれば本に埋もれて眠りたい

黄金の時間/越境

越境

コーマック・マッカーシー


越境 (ハヤカワepi文庫)/コーマック・マッカーシー
¥1,155
Amazon.co.jp





いい本を読んでいるときというのは、読んでいるときはもちろん、読んでいないときさえ「あぁ、今度時間が空いたらあの本が読めるんだ」と幸せになります。

久しぶりにそう感じた本でした。



コーマック・マッカーシーの<国境三部作>の2冊目。


あらすじは、

アメリカ南部で牛を飼って暮らしている家族。

あるときメキシコからやってきた狼が、近くの牧場の牛を狩る。

主人公の少年が、ワナをかけ、何度も失敗したあげくやっとのことで、狼を捕らえる。

しかし、その狼をメキシコに放つことに決め、少年は1人で狼とともにメキシコへ越境する。

そして少年は3度越境することとなる。



すべての美しい馬 」でもそうでしたが、初めは現代日本小説とのあまりの距離感に、読み方が分からなくなってしまいます。

しかしあとがきにもあるように、これは人と人との関係を描く心理小説でな、く『白鯨』のような<世界>と人間の関係を描いた小説、と言われれば、至極納得です。



家族や友人への不器用な愛。

敵対する人物との硬質な会話。

主人公の直情。



そういったものにたいする、アメリカ南部の荒野の美しさと激しさ。

狼に心奪われる理由なき何か。メキシコの摂理異なる世界。

そして世界全体を覆う理不尽と哀切。



そういったものを心理描写を交えずに、広大で長大な作品として描いています。




個人的には主人公の意思の通し方が読みどころでした。

理由の説明できないものにも何の躊躇もなく行動でき、それに対して淡々と責任をとっていく様は、そういう生き方もあるのかと改めて気づかされました。



3部作「すべての美しい馬 」「越境」「平原の町」と読みましたが、「越境」が一番面白かったですね。

今年はこれが読めてよかった、と言える1冊になりました。