時代のフォーカスポイント/或る「小倉日記」伝 | できれば本に埋もれて眠りたい

時代のフォーカスポイント/或る「小倉日記」伝


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松本清張

或る「小倉日記」伝



或る「小倉日記」伝 (角川文庫―リバイバルコレクション)/松本 清張
¥540
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松本清張の現代小説の短篇集です。


全あらすじはこんな感じです。


片足に障害があり、口にはよだれを一杯にため、言葉も明瞭ではない主人公。

頭脳は明晰なのですが、その分自尊心が高く就職もなかなかできません。

そんなある日、森鴎外の小倉に居住している時代の日記がないことに着目して、関係者に話を聞いて周り記録していくことに全力を傾けるようになります。それを続けていくうちに、収入は少なくなっていき、戦争は進み、そして・・・。

表題作或る「小倉日記」伝は、そんな青年の生涯を短篇にまとめたものです。


そのほか


才能ある歌人であり、妻である女が、凡庸な夫や子供を見捨て、歌道に邁進し、常道を逸していく様子を描いた「菊枕


婚約相手の断片的な記憶から過去を探る、ミステリ風の「火の記憶


代用教員から考古学者を志し、良妻を得るも恩師や関係者への辛口の論評のため次々と関係を断たれていく様子を描いた「断碑


学問に身を投じた学者がずるずると女にはまっていく様子を、ありきたりながら丁寧に描いて手垢を見せない「笛壺


終戦直後の朝鮮。アメリカ軍が日本人居住区に進入する際、アメリカ軍への日本人慰安婦を日本軍が選ぶこととなる。そうとは知らずにくじをひかされる女性たち。軍人達の誰もが手をつけられないほど気品のある夫人がくじをひく。そしてアメリカ軍がやってくるが、慰安婦は必要とはされなかった。そして帰国することになるのだが、なぜか軍人の夫人への視線が変わる。そして・・・という、事実は何も変わっていないのに、人の気持ちが変わってしまうという妙を書き出した「赤いくじ


学問で身を立てることもできないのに学問好きで、一生貧乏な商売人として過ごした父を想い、自分もやはり貧乏であることに嫌気を感じる「父系の指」


偶然化石を見つけたことで考古学に身を費やすもその成果を学者に取られてしまう生涯を描いた「石の骨


田舎のぽっとでの技術もない素人画家が描いた絵を買う有名画廊。それは有名画家への刺激のためであった。素人画家は自分の画力をわかってくると、技術を学び始める。そうすると画廊はなにも言わずに絵を買わなくなった。才能とそのタイミングが示唆に富む「青のある断層


一人暮らしの女性。世知辛い世では収入もままならない。恋人には妻があり、なのでいっそう尽くしてしまう。仕事先で融通してくれる男が、だんだんと自分に近づいてくる。そしてある夜、酔って自分の部屋にやってくる。しかしドアの外には人の気配が・・・、というまぁどうでもいい不倫話を人物をしっかり描くことで読ませる「喪失


不倫旅行で身の回りの品を盗難にあった小役人。政治家に助けを求め急場をしのいだものの、だんだんと弱みを握られていく「弱味


淡い思いを持ち合っていた従兄弟同士。それぞれに結婚はしているが、あることをきっかけに箱根に日帰り旅行に行くことになる。しかし、途中で交通事故にあってしまい、箱根に宿泊してしまうことになり・・・という、どうでもいいといえばどうでもいい、がしっかり描いてあるので読ませる「箱根心中



読んで感じたのは、いわゆるオヤジ週刊誌(新潮とか文春)とSPAの違いですね。

同じフォーマットでありながら、片方は「オンナ、カネ、チイ」を直接的に求め、片方はそれらをワンクッションおいて求める。


この短篇で書かれた基本的なところは「嫉妬」「羨望」などの感情です。

それだけなら凡百の通俗小説と同じなのですが、それを、よい題材、しっかりとした筆致技術と透徹した目線で書かれているのでついつい読んでしまいます。でもなんだかポイントの外れた感じ。それはきっと世代の求めるものの違いなのでしょうか。今の時代、今の世代を描いた松本清張の作品が読みたいなぁ、と感じました。



この本を読もうと思ったきっかけは、角川文庫の夏の100冊のブックレットにあった、京極夏彦が選んだ一冊として紹介されていたため。「松本清張は、往時の日本の姿をしっかり書き写してくれた人でもあります。・・・」とあり、前々から手をつけたかった松本清張の本を読むことができてよかったです。新潮社も集英社も夏のブックレットを読みましたが、一番工夫がしてあったのが角川でしたね。同じく金城一紀が選んだ小松左京の「霧が晴れた時」も読んでみたいと思っています。


ところで上の写真はなにが言いたいのかというと、レースです。

dharmabooks さんの本の畑 というブログが「芋蔓本っておもしろいなぁ」と思って読んでいたのですが、最近はすっかり編物の方 にご執心のようです。たまの更新はいつも読んでいたのですが、ある日キリ番でのプレゼント告知 。レースを見ながらまったく他人事、よその世界でしたが(今までの生活でレースに主体的に接したこともキリ番を踏んだこともないので)踏んでしまいました。いやぁ、あせりました。こんな理解のない人間がもらっても、と思いしばらく躊躇していたのですが、結局連絡を差し上げ、いただきました(家族が喜んでいます)。

でも、不慣れなもので飾る場所も思いつかなく、試行錯誤と多分の虚飾を交え、上の写真のようになった次第です。

dharmabooks さん、ありがとうございました。

ご連絡遅くなってすいませんでした。


いやぁしかし、ブログやっていると、こんなこともあるんですね。