寄り道はなし/ザ・ロード
コーマック・マッカーシー
ザ・ロード
- ザ・ロード/コーマック・マッカーシー
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意外に合いますね、マッカーシーとSFというのは。
舞台はアメリカ。
何かとてつもない災厄が訪れて、国家の機能が破綻し、マッドマックスか北斗の拳のような世界になったようです。
その世界で父と息子が、灰で覆われた世界の冬を南で迎えるため旅する、ロードノベルです。
しかし、西欧人は食料に困るとすぐ人を食べたがりますね。
マッカーシーらしく、ひどく残酷な描写が断片的に見られ、緊張感が高まります。
でも、要はどうサヴァイブしていくか、という話で物語が深まっていかない印象です。
襲われて逃げたり、食べ物が見つかったり見つからなかったり、いちいちは面白いのですが、若干ご都合主義に感じてしまうのは、イマイチはまりきれなかったからでしょうか。
それから、マッカーシーの読みどころを「運命」とみると、まぁそういう結論かと、妙にさめて納得してしまいました。
ラストはラストで賛否両論があるようですが、私はどちらでもOK。
マッカーシー作品を読むときの違和感は「運命」の扱いです。
今、現代人の悲哀の一つが「自分の運命は自分で変えられる」という、金科玉条です。
他の小説を読んでも
「こんながんばったからこんないいことがあった」
「自分はだめだから、うまくいかなかった」
と
「運命を変える」
という星のまわりをぐるぐる周っているような気がします。
そしてマッカーシーの「運命なんか決まっているから」論を読むと、何か新しい喪失感と開放感が感じられるのはなぜでしょうか。
なんだか新しい星を見つけた気持ちです。
それから一言。
マッカーシーの訳を行っている黒原敏行の解説は、いつも示唆に富み、理解を深めてくれます。
解説って9割5分はくだらないことが書いてあると思っていたのですが、認識を改めます。
書評というか解説とは、こうあるべきだ、というお手本です。
で、結論。
今のところ、個人的なマッカーシーの最高傑作は「越境 」です。
斬新で美しい舞台。不可解でも気持ち良い動機。無慈悲で物悲しい運命の流れ。すべてが一体となって小説となり、非常に印象深い読書体験となりました。
時間をおいてまた読みたい作品です。