寄り道はなし/ザ・ロード | できれば本に埋もれて眠りたい

寄り道はなし/ザ・ロード

コーマック・マッカーシー

ザ・ロード


ザ・ロード/コーマック・マッカーシー
¥1,890
Amazon.co.jp





意外に合いますね、マッカーシーとSFというのは。


舞台はアメリカ。

何かとてつもない災厄が訪れて、国家の機能が破綻し、マッドマックスか北斗の拳のような世界になったようです。

その世界で父と息子が、灰で覆われた世界の冬を南で迎えるため旅する、ロードノベルです。



しかし、西欧人は食料に困るとすぐ人を食べたがりますね。

マッカーシーらしく、ひどく残酷な描写が断片的に見られ、緊張感が高まります。


でも、要はどうサヴァイブしていくか、という話で物語が深まっていかない印象です。

襲われて逃げたり、食べ物が見つかったり見つからなかったり、いちいちは面白いのですが、若干ご都合主義に感じてしまうのは、イマイチはまりきれなかったからでしょうか。


それから、マッカーシーの読みどころを「運命」とみると、まぁそういう結論かと、妙にさめて納得してしまいました。

ラストはラストで賛否両論があるようですが、私はどちらでもOK。



マッカーシー作品を読むときの違和感は「運命」の扱いです。

今、現代人の悲哀の一つが「自分の運命は自分で変えられる」という、金科玉条です。

他の小説を読んでも

「こんながんばったからこんないいことがあった」

「自分はだめだから、うまくいかなかった」

「運命を変える」

という星のまわりをぐるぐる周っているような気がします。


そしてマッカーシーの「運命なんか決まっているから」論を読むと、何か新しい喪失感と開放感が感じられるのはなぜでしょうか。


なんだか新しい星を見つけた気持ちです。



それから一言。

マッカーシーの訳を行っている黒原敏行の解説は、いつも示唆に富み、理解を深めてくれます。

解説って9割5分はくだらないことが書いてあると思っていたのですが、認識を改めます。

書評というか解説とは、こうあるべきだ、というお手本です。



で、結論。

今のところ、個人的なマッカーシーの最高傑作は「越境 」です。

斬新で美しい舞台。不可解でも気持ち良い動機。無慈悲で物悲しい運命の流れ。すべてが一体となって小説となり、非常に印象深い読書体験となりました。

時間をおいてまた読みたい作品です。