もしも時空を操れるなら/ディスコ探偵水曜日 | できれば本に埋もれて眠りたい

もしも時空を操れるなら/ディスコ探偵水曜日

ディスコ探偵水曜日

舞城王太郎



ディスコ探偵水曜日〈上〉/舞城 王太郎
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ディスコ探偵水曜日 下 (2)/舞城 王太郎
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このタイトルとこの表紙。

ああ、もうラノベでいいんだ、と思って読み始めたのですが、全然そんなことはありませんでした。



あらすじは、主人公のディスコ・ウェンズデイは迷子探し専門の探偵。

アメリカで活躍していたのですが、日本での仕事の途中で、誘拐された親から押し付けられた6歳の梢と一緒に住み始めることになります。


ある日突然梢がメキメキと音を立てて大きくなり、17歳の梢に。そしてすぐまた6歳に。

なんだなんだと思っていると、次第に17歳の時間が長くなってきて、11年後から来たといいだします。

そして未来の世界のことを語りだしますが、それでもなんでタイムスリップするかが分かりません。


でも17歳が来ている間、6歳は「パイナップルトンネル」に行ってしまって、つらい思いをしているらしい。

そして17歳の梢に恐ろしいことが起こります。

そこでその謎を解くために殺人事件が起きて、名探偵があつまっている「パイナップルハウス」に行くために、調布から福井に移動。


そして、殺人事件の謎解きを間違えたら、間違えた名探偵がなぜか殺されるという状況の中、名探偵による謎解き合戦が始まります。デンマーク語やモンゴル語、ホロスコープから北欧神話・・・


タイムスリップと殺人事件の謎解きの行き着くところは・・・とここまでで上巻。


下巻は適役ブラックスワンとの時空対決がメインになります。



みんな元気 」で提起されたタイムスリップに対する思考実験と、推理が無目的するかと思えるほどの深読みの繰り返し。


推理合戦はラノベ的文脈の「自分語り」に近いものがあり、それを徹底していくことで、逆に無目的化していくところは、まるで自分探しをいくら続けても結局どこにも行き着くことはできない、ということの暗喩のようにも思えました。


タイムスリップは、時空間を操るのは意識の問題として、時間も空間も操れたとき、はたして諍いというものはどういう風に行われ、どう結末を迎えるか、というところはSF的思考実験で面白くもありましたが、結局現実世界でも意識をどう持つかで現実世界の受け止め方も大きく変わり、そういう意味ではあながちSFの話として笑って読める作品でもなく、実に示唆的なものでした。


主人公がついつい物事を深読みしすぎてあらゆることを疑いだすと「ジャストファクツ」といって自問自答をとめるところが、コレだけ壮大な思考実験の中での、逆のベクトルとして箴言のように光って見えました。



しかし、やっぱり舞城王太郎のむやみな想像力は凄いですね。

ラノベのフォーマットの上にミステリとSFのアプリケーションを持ってきて、扱う問題は現実認識、しかも飽きさせないストーリー展開は、舞城王太郎ぐらいしかできないでしょう。

上巻が619ページ、下巻が452ページとむやみな厚さは、果たしてココまで必要だったかとも思い、読み始めるのを躊躇する厚さではありますが、舞城ブランドを信じて読み始めてよかったです。

意識の問題をここまでアクロバティックに読ませるのはさすが、舞城王太郎

読む人を選ぶ作品でもありますが(ハードSF的には厳密ではないし、ミステリ的にはあまりにも現実世界を超えている、ラノベ的表紙と会話と登場人物名)読めるなら楽しめるでしょう。

他の作家では読めない作品を読むことができました。