絵本色々4/実用書としての絵本
前回「絵本色々3」から早1年。
絵本のことを書きながら、実は子供のことを書いていたのでは(つまり親ばか)、と心配になりしばらく書きませんでしたが、そろそろ書きたい絵本も出てきたので注意して書いてみたいと思います。
個人的に絵本は実用書と思っています。
子供に読んでもらわなきゃ始まらない。
でも、親も一緒に読むので、親が読んでも面白い絵本。
■最近の日本人作家のもの。
- わにわにのおふろ (幼児絵本シリーズ)/小風 さち
- ¥780
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擬音語が子供にはぐっとくるようです。
移動の音は
「ずるずりずるずり」
お風呂で歌うのですが
「うりうりうり オーイェー」
タオルで体をふくのは
「ぐにっ ぐにっ ぐなっ ぐなっ」
- ショコラちゃんのパジャマ―Chocolat Book〈2〉 (講談社の幼児えほん)/中川 ひろたか
- ¥893
- Amazon.co.jp
いまどきの作家の子供用の絵本は、変に暗い部分がないフラットな感じがいいですね。
洗濯機を回すところが気に入っているようです。
また、絵本ぶった情緒がはいっていないのも好感が持てます。
- おはようジャッキー (「くまのがっこう」ファーストブック)/あいはらひろゆき
- ¥893
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書いてある言葉がリズム感があるので、子供にも受けがいいですね。
兄弟が11人もいるので、そろったシーンはパンチがあります。
巻によっては気に入らないものもあるようですが
「おひさまきらきら きょうはいいお天気」
から始まるこの本は気に入っているようです。
■工夫のある本
- どうぶつどこ? (講談社の創作絵本 どこミニ)/山形 明美
- ¥683
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実際のジオラマを制作して写真にとったもの。
こどもには「あひるはどこ?」と聞きながら本を読みます。
実際の立体のジオラマなので、結構リアルな感じで、新鮮です。
移動などにはもってこいですが、次第に場所を覚えてきますね。
- ぼくのおべんとう/スギヤマ カナヨ
- ¥924
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- わたしのおべんとう/スギヤマ カナヨ
- ¥924
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幼稚園でお弁当を食べている設定で、おべんとうの中身の絵が続きます。- 「まずはたまごやき。きょうはやさいいりのしょっぱいやつだ」
- と色々いいながら食べていきます。
- 感心するのは、「ぼく」と「わたし」が隣り合っていて、からあげとミーとボールをとりかえっこすることです。
- 2冊買いたくなってしまうじゃないですか。
■海外の作家
- ハンダのびっくりプレゼント/アイリーン ブラウン
- ¥1,470
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果物を友達に届ける話なんですが、おいしそうな果物、それを失敬するリアルな動物、かわいい外国の女の子、オチのあるハッピーエンド、となかなか練られた絵本でした。
図書館で借りてきて、あんまり本屋でみたことなかったのですが、ひきがよかったので購入しました。
- リサとガスパール デパートのいちにち (リサとガスパールのおおがたえほん)/アン・グッドマン
- ¥1,785
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「ペネロペ」がひきがよかったので、「リサとガスパール」も試してみました。
そうするとやっぱりなかなかひきがいいですね。
ただ、油断するとなんだか悲しい話や逆にずいぶんと単純なはなしもあるので、親的にはちょっと吟味が必要です。
■古典
- 14ひきのあさごはん/いわむら かずお
- ¥1,260
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絵が隅々まで書き込まれているので、小さなことを見つけて楽しんでいます。
顔を洗っていたり、指をけがしていたり、ジャムを取り合っていたり。
字よりも絵で語る部分が多く、まさに「絵本」ですね。
- あいうえおの本/安野 光雅
- ¥1,575
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哀しいかなやはり知育を考えてしまい購入。
左に文字を一つ。右に絵。という構成で説明はありません。
でも思ったよりもくいつきがよかったですね。
文字を木工細工のように書いてあったり、絵がきれいだったり、周りの線画がその文字で始まる絵でできていたりと、親も見入ってしまう魅力があります。
しかし1976年発行ものなので「え」が絵馬。「し」が七福神、「そ」がそろばんと時代を感じさせます。
ちなみに手元の本は49刷りでした。
■番外
- NEKO (ネコ) 2008年 08月号 [雑誌]
- ¥980
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子供は意外に雑誌好き。思いもよらない写真に反応したりします。そして動物好きなので試しに「NEKO」を借りてみると結構反応していました。
ま、たしかにかわいいんですけどね。
■総論
子供のツボがイマイチ把握しきれていないので、絵本を選ぶのはやっぱり難しいですね。
ちなみに子供の御飯作りも似た難しさを感じます。
図書館でも本屋でもそうですが、基本、絵の見えない本棚に入っている本には食指が動きませんね。
平積しか見ないことが多いです。
それはきっと普通の本ならタイトルでそのセンスや分野がある程度わかりますが、絵本の場合一番大事な「絵」が背表紙だけでは分からないからでしょう。
スペースの関係もあるのでしょうが、本屋も図書館も再考の価値があるのではないでしょうか。
心に浮かぶ本当の想い/春になったら苺を摘みに
春になったら苺を摘みに
梨木香歩
- 春になったら莓を摘みに/梨木 香歩
- ¥1,365
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- 春になったら苺を摘みに (新潮文庫)/梨木 香歩
- ¥420
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- 西の魔女が死んだ (新潮文庫)/梨木 香歩
- ¥420
- Amazon.co.jp
これも星野道夫の写真が表紙になって、とても静かで心温まる感じが伝わってきます。
「西の魔女が死んだ」(未読)で有名な梨木香歩の英国滞在周辺のエッセイです。
かつて下宿していた心優しきウェスト夫人の底の抜けたようなホスピタリティや、そこに滞在した風変わりな下宿人の話を、表面的ではな相手の心のありようまでも書き綴ったものです。
梨木香歩特有の、色々な水が混ざって底の見えない池の底を覗くように、丁寧にその自分と相手の心の様子を見つめていきます。
一番心に残ったところは、カナダを旅行中、列車の個室を予約して車掌にそのことを告げ、案内してもらうと予約した個室ではなく、しばらく押し問答をした後その部屋を予約した客が現れようやく車掌が自分の間違いに気づき、個室に案内したあとの場面で、梨木香歩はかすかな人種差別の匂いをかぎながら、工夫されたベッドのメイキングをする車掌の様子を見ながら
職人風の濃い眉毛。がっしりとした体格。
私はまださっきの波立った気分を引きずっていた。通じ合えるはずだ、と思った。この感情を彼に伝えたいと思った。
私は本当にはどう感じたのだろうか。憤慨?屈辱?いやいや、そんな表面的なものには惑わされずにいよう。私が本当に感じたのは・・・。
---あなたが私の言うことを信じてくださらなかった。あのとき。
私は彼を真っすぐに見てトーンを落とし、ゆっくりと話しかけた。彼の動きが止まった。
---私は本当に悲しかった。
静かだった。うつむいた彼の顔が一瞬で真っ赤に変わった。赤面する、というのを英語でフラッシュト、というけれど、本当にそういう感じだった。それからは彼は何も言わずに黙々と作業を続けた。私も黙っていた。作業を終えると、かれはおやすみなさいとだけ言い残して出て行った。私も、おやすみなさいと返した。
全体的に静かな印象のあるエッセイながら、こうした「本当に思っていることを相手に伝える」というあまり見ない価値観の異空間を現出させるなど、梨木香歩独特の世界観に改めて惹かれるものを感じました。
そう、本当に心に感じたことを相手に必要な形で相手に伝えることができれば、世界のありようが変わるのでは、とぼんやり思いながら、その手の大本になる世界観とはどんなもんだろうと、思いをはせました。
ナチュラル・ボーン・小説家のSF/シャングリ・ラ
シャングリ・ラ
池上永一
- シャングリ・ラ/池上 永一
- ¥1,995
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池上永一の初のSF長篇です。
温暖化の進んだ未来世界では、二酸化炭素が世界的に管理され、炭素を中心とした「炭素経済」が勃興し始めています。
日本は温暖化が進み、その対策として東京はほとんどの地域を森林化し、巨大人工高層建造物「アトラス」を建築し、移住が始まっています。
しかしアトラスに移住できるのは、選ばれた一部の住人のみ。
その不平等に立ち上がるゲリラ。
アトラスの選人の影にある壮大な計画。
炭素の債権化による炭素経済の加速。
という舞台にもちろん池上流の濃いキャラクターが登場します。
主人公はゲリラのリーダーの孫娘。鑑別所のシーンから始まります。
母親がわりのニューハーフは、下ネタから格闘技まであらゆることを主人公に教えます。
他にも、そのひとに嘘をついたら翌日見るも無残な死を遂げる、アトラスの「選ばれし」住人。
炭素経済の盲点をついて巨額の富を得と世界経済を揺るがし始める、まだ小学生のカーボニスト。
ギミック的にも東京湾を覆うほどの想像を絶する大きさのアトラス。
政府軍が繰り出す秘密兵器の完全偽装装甲。
主人公が使うカーボンナノチューブでできた戦車も切り裂くブーメラン。
とまぁ、ありとあらゆる想像力を詰め込んでおもちゃ箱のようにした作品です。
物語製造機としてのナチュラル・ボーン・小説家らしい作品で、いたるところに様々なアイディアが盛り込まれていて、なかなか楽しい作品です。
いちいちの検証もきっと楽しいのでしょうが(炭素経済や完全偽装装甲やアトラスなんか)、まぁそれはないだろ、的なこともあり(コンピュータのコードを手首に直接刺して血を流しながらハッキングしていたり・・・)、SF的なものは突き詰めないほうがいいんでしょう。
相変わらずのキャラの面白さはもちろん存在していて、主人公とオカマのモモコとの会話はやっぱり面白い。
オカマのへらず口は、まさに池上流の語りにぴったりとフィットしていました。
ま、ここらへんのやりとりだけでも読む意味がありますね。
世界観から道具まで作り上げる膨大な知識と想像力が必要なSF作品は、池上永一のむやみな想像力の処理作品としては面白かったのですが、やっぱりSFの精緻な世界観的な面白さとはちょっと違っているようです。
なので次の池上作品はSFの「レキオス」は飛ばして、「俺の庭」+αの沖縄時代小説「テンペスト」を読もうと思います。
- テンペスト 下 花風の巻/池上 永一
- ¥1,680
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- テンペスト 上 若夏の巻/池上 永一
- ¥1,299
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つかみはOK/ザ・万歩計
ザ・万歩計
万城目 学
- ザ・万歩計/万城目 学
- ¥1,260
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鴨川ホルモーで有名な万城目学のエッセイ。
そうかマキメって読むんだ、と知りました。
デビューまで会社で経理をやっていた話や家族で見た黄色くて大きな鳥(セサミストリート級)を「藪の中」風に書いてみたり、新人作家として色々工夫して手を抜かずに書いているエッセイなので、面白かったです。
「こわれかけのRadio局」のやぎのゆうびんやさんのつかみは面白かったですね。たしかにしろやぎさんはちょっとおかしい。
マキメワールドが垣間見れた気がしましたので、鴨川ホルモーも読んでみたいと思います。
しかし小説よりエッセイを先に読んでしまうのはちょっと自分に負けた気がして悔しいですね。
- 鴨川ホルモー/万城目 学
- ¥1,260
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殺し屋大集合/グラスホッパー
伊坂幸太郎
グラスホッパー
- グラスホッパー (角川文庫 い 59-1)/伊坂 幸太郎
- ¥620
- Amazon.co.jp
伊坂幸太郎にはめずらしく、殺し屋大集合のバイオレンスなお話。
妻が交通事故で殺され、その運転手が面白半分で運転していという事からその首謀者に復讐を計画。
その首謀者の経営する会社に入り隙を窺うものの、その会社自体麻薬を売るような会社でそのことに荷担する自分に葛藤。
そしてその首謀者が現れるが、なんと目の前で殺される。
その殺した犯人を巡って殺し屋が集合していく、という話です。
殺し屋がこれまたバラエティに富んでいて、
相手を鬱にして相手を自殺に追い込む「自殺屋」
良心の呵責なく一家惨殺もできる「蝉」
車や電車での交通事故にみせかけて殺す「押し屋」
など、キャラがたっていました。
とくに蝉の、「なんで誰でも殺せるんだ」、という雇い主からの質問に
「俺は頭が悪いからよ、難しいことから逃げるのは得意なんだよ。数学の定理とか、英文法とかあるじゃねいか。ああいうのを黒板に書かれても、さっぱり分からねえんだよ。だからそういう時は、考えるのをやめるわけだ。それと同じだよ。人を殺すのがいいことなのか、悪いことなのか、そういうのは考えねえんだよ。仕事だからやる。それだけだ。・・・」
という部分は、へんなリアルさを感じて、ぶるっとしました。
しかしなんせ全員殺し屋。
共感する部分は少なく、ま、ボチボチ楽しめましたが、こういう伊坂幸太郎らしくないバイオレンスな感じは、慣れていない眼鏡をかけているみたいに居心地が悪かったですね。
伊坂幸太郎流のバイオレンスは、それなりに味わいがありますが、こんな感じで全面展開するのは今後はないんじゃないかなぁ、と思いました。
精度って何の?/死神の精度
死神の精度
伊坂幸太郎
- 死神の精度 (文春文庫 (い70-1))/伊坂 幸太郎
- ¥550
- Amazon.co.jp
死神が、リストに上がった人を事前調査して、死がふさわしいかどうかを調べるという短篇集。
死神が担当する死は、自殺や寿命ではなく、突発的な死。
基本的にリストにあがってくると、ほとんどが「可」となり死ぬことになります。
死神は人の形に扮しても眠くもならなければ痛みもなく食事もしなくてもいいが音楽が好き、という設定。
伊坂幸太郎らしく、短篇のつながり、言葉遊び、ちょっと突き放した視点、人のいいキャラ、日常の謎解き、などがちりばめられています。
するすると読め、伊坂幸太郎らしい作品ですが、その内容は小品と感じました。
表紙もイマイチ。
しかし伊坂幸太郎のタイトルは、いつもしっくりこないんですよね。
なんでかな。
含みの持たせ方のポイントが好みでない、という話でしょうか。
そんなによかったかハワイ/まぼろしハワイ
まぼろしハワイ
よしもとばなな
- まぼろしハワイ/よしもと ばなな
- ¥1,575
- Amazon.co.jp
多作家のよしもとばななが、5年もかけて制作した本、とのこと。
どーもハイワはいいところらしい。
表題作「まぼろしハワイ」は、父の死後、父の後妻のフラのダンサー(日本人)とハワイに旅行に行くという話。
重い家族の話が、ハワイの地とフラとそこにかかわる人によって癒される、という話。
次の「姉さんとぼく」はめずらしく男が主人公。
両親が事故で死に、自分のために多くのものをささげてくれた姉さんへの重みと思いが、ハワイの地で少し軽くなるという話。
最後の「銀の月の下で」は、自由奔放な母に傷つけられた自分をハワイの地で思い出し、そこで出会った人との会話の中で癒されていく、という感じの話です。
短中篇のせいか話題が絞られているので、内容はわかりやすいですが、ハワイ小説的には「サウスポイント 」のほうが色々な要素が絡み合いながらゆったりと作ってあって面白いですね。
「銀の月の下で」で出会った男性がある種の女性の理想像的なものがあり、「オトナの恋とはこんな感じ」と思いつつも、じつはよしもとばなな流のハーレクインではなかったのかと思ってしまいました。
家族とはそういうもの/血族
血族
山口瞳
- 血族 (文春文庫 や 3-4)/山口 瞳
- ¥610
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自分の親の若い写真をみるとなんだか遠い空を眺めているような気がしてきます。
遠いような近いような、自分に関係があるような、ないような。
さらに祖父母との家族写真となるとその距離はさらに遠くなりますが、でもやっぱり自分からは離れなれない。
日没寸前の長く伸びた自分の影のように。
家族から先に伸びる系図は、自分の誕生にまつわる重要な内容なのに、伸びれば伸びるほどディテールは曖昧。
そう、血はつながっているとはいえ、家族親族血族は「謎」を含んでいるんですね。
そんなことを改めて考えてしまった作品でした。
この本のあらすじは、作者の母方の親族を探っていく話になります。
戦争成金として豪邸と夜逃げを経験した幼少時代。
遠い親戚との同居と父と母の争い。
母の若い頃から急に長男、そして自分になる、母のアルバム。
家の中で語られる奇妙な言葉。
自分の本当の誕生日。
すこしずつ明かされていく謎は、まさしく謎が謎を呼び、謎が明かされていくたびに更なる謎が追加されます。
それでも見えてきた、母方の親族の本当の姿とは・・・。
今手にしている本は昭和54年発行で55年には28刷りになっています。
全然知りませんでしたが、そのころは結構売れたんですね。
作品解説では丸谷才一が「社会性のある私小説」と評しているのも隔世の感があります。
私自身、山口瞳という作家はほとんど興味のない作家ですが(開高健と同じサントリーの広報室にいたことぐらいしか興味がなかった)、それでも十分面白く読めました。
古いアルバムを思い出すところから始まるのは、「人間失格」みたいで、なんだか恥ずかしかったです。
父方の謎を探る「家族」というのもあるみたいですね。
そちらも気になってきました。
つなさんのブログで読む気になりました。
よい本のご紹介どうもありがとうございます。
http://tsuna11.blog70.fc2.com/blog-entry-83.html
よしもとばななのX軸Y軸/サウスポイント
サウスポイント
よしもとばなな
- サウスポイント/よしもと ばなな
- ¥1,575
- Amazon.co.jp
ハワイの話です。
はなしのあらすじ(ネタバレ)は、小さな頃、分かり合えた恋人と夜逃げのせいで離れ離れになってしまった主人公。
しばらくして遠距離恋愛が始まりますが、こんどは恋人がハワイに親と同居するために引っ越してしまいます。
しばらくは手紙のやり取りは続いていたものの、大人になるに連れまわりで色々な問題が起こり恋人とは気持ちが離れてしまいます。
そしてある日聞いたハワイアンミュージックに自分の書いた手紙の言葉が歌われていることに気が付きます。
そのミュージシャンに連絡をとったところ、恋人の兄という事がわかり、恋人が死んだことを知らされます。
悲しみにくれながらも、ハワイに恋人のお母さんに会いに行くことになり、ついてもみると実は兄は死んでいて、兄と名乗った人が恋人だったのです。
兄の恋人に「ずーと思われていたなんて、暗くて気持ち悪くない」といわれ、そのことを十分理解しながらもその恋人の目立たない本当のよさを改めて感じ、すこしずつやり直そうという気持ちがでてくる、という話でした。
この本を読んで、よしもとばななはなんとなく分かるけどでも本当のところを理解していないなぁ、と感じていたのですが、その理由が少しわかりました。
我々は人と接して生活していくとき、お金や名誉や自分勝手さをいかに自分に利するようにするか、日々研鑚をつんでいます。これは悪い意味でなく、たとえば仕事の効率を上げるとか、他人に仕事を任せるとかそういうことです。かりにこちらをX軸としましょう。
しかしそういう軸とは違う次元で、自分にとって気持ちいいこと、大事にしたいこと、そういった種類の軸もあります。なんでしょう、時間をかけて御飯を作って家族で食べるとか、時間がかかってもうからないけど自分の仕事は全部自分でやる充実感とか、そういうことでしょうか。そういう軸もあるのだと思います。こちらをY軸としてみます。
で、その両方について洗練された方向もあればより粗野な方向もあり、その両方の総体として人がいるわけです。
ただ、今の世の中は、圧倒的にX軸が優勢ですね。
もちろん効率の悪い世界は問題があると思いますが、あまりにも効率優先すぎても肝心の何のために効率をよくするか、ということがすっぽりぬけていて、お金はあるのに過労死するような人が出てきてしまうんですね。
かといって、Y軸ばかり行き過ぎても、問題があるでしょう。自分の内在的なプラスだけに目を向けて、あまりに非効率な生活やその非効率さのあまり自分や他人を害してしまっては、こちらも結局自分の幸福からは慣れてしまったりするわけですね。
で、よしもとばななは一貫してY軸のことについて色々と書いてきたのですが、稀有なところとしてはX軸にも理解があるということなんですね。だからX軸の人にも理解がしやすい。ただ、Y軸をもとにX軸を考えているので、なんだか変わった家族やら職業やらが出てくるわけですね。
で、最近の作品はそのX軸ともY軸ともが洗練され理論化されてきているので、よりなにが行われているか意識的で分かりやすくなってきているんではないでしょうか。
主人公のX軸であるキルト作りとY軸であるその思い。
Y軸である恋人への思いとX軸である、現実としての恋人との生活。
今までの色とりどりのY軸の生活様式・思い・行動は読んでいて心の中にしまっていた何かが動き出すような気持ちで読んでいたのですが、最近はX軸の実際の生活においての実践も身にしみて読むことができ、X軸Y軸の両面から書くことの相乗効果が他の作家より抜け出ているところではないでしょうか。
ま、かかれていることはいつも同じなので(うーん、恋愛小説?)飽きてしまう人もいると思いますが、Y軸をX軸中心の人にも読めるよう書け、しかもよんで面白い人、ということでわたしはやっぱりよしもとばななを読んでしまうのです。
ちなみにこれは「ハチ公最後の恋人」の続編、「まぼろしハワイ」の対になる作品とのことです。
ぼんやり読んではいけない/わたしを離さないで
わたしを離さないで
カズオ イシグロ
- わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫 イ 1-6)/カズオ・イシグロ
- ¥800
- Amazon.co.jp
たいていの本がそうですが、この本もできるだけ前情報が少ないほうが楽しく読めるので、カズオファンは、書評なんか読まないですぐに読み始めることをオススメします。
相変わらずまったりとした筆致のカズオイシグロ。
うっかり読んでいると気が付いたら終わってしまっているという危険がある作品です。
英国の寄宿舎のような場所で育てられている子供達。
不自由のない生活ではあるものの、奇妙な束縛と普通に話される「提供者」「介護人」などの言葉。
女の子を主人公にして閉ざされた世界での思春期特有の細かい気持ちのやり取りを描きながら、大きな謎が、子供達を少しずつ染めていきます。
直接的な言及はないものの、先生の失言や感情的な行動、生徒間での噂などが背後の闇を際立たせ、悪夢なのに悪夢と気づかないような夢の主人公になった気分がしてきます。
静かに流れていった先は、身動きのできない納得づくの終着駅だった、そんな本でした。
しかし、あわないなぁ。
ゆっくりと丁寧な筆致は、どうしても気がせいてします。
書かないことであえて書いていないものを浮き出す手法や、英国人的のひねりすぎてわかない皮肉のような文体など、あわないですね。
解説で柴田元幸が「カズオイシグロの最高傑作」といっていますが、いわれればなるほどと思うのですが、やっぱり本当の伝えたいことが分からない。
本当は書かれていない部分にもっと感情移入して読むべきでしたが、あらすじを読んでだいたい「謎」の想像がつくと「ふむふむ」と読んで終わってしまいました。
この手の本は一期一会で最初の一発が重要。
ぼんやり読んで取り返しのつかないことをしてしまいました。
主人公が「怖い」の一言でもいってくれれば、と思うのですが、言わないのがいいところなんですよね。
皆さん十分にご注意を。
そういえば「日の名残
」もこんな感想になっていました。